地デジ化
2011年 07月 24日

もちろん、期間限定(2015年3月末まで)の暫定的措置であり、2015年には今度こそアナログ放送は停止される。いずせにせよ、あと三年数ヶ月の命である。
電機メーカーに勤める者として、「地デジ化」は時代の大きな転換点である。
民放の投資額だけでも1兆円超、電機メーカーの開発費や国の補助金なども含めて数兆円に上ると思われる設備投資が計画的に行われ、我々にとってはそれが、戦後最大のビジネスチャンスでもあった。テレビは売れに売れて、一時は繁栄を手にするかとの幻想を見たのである。しかし、結局は多くの参入者による競争激化に陥り、テレビ事業はどこも赤字という無残な結末に至った。
誰でもテレビが作れる「デジタル」の世界は、ものづくりで差をつけてきた日本の従来のビジネスモデルを破壊してしまう、とんでもない戦場と化してしまったのである。
その「地デジ化」が完了してしまった以上、もう日本にはこれ以上に大きなビジネスチャンスは到来しないであろう。すでに行き場を失った電機メーカーは、次なるテーマである「環境」と「新興国ボリュームゾーン」に向けて一斉に走り出した。
今度は、全地球的なレッドオーシャンにおける、さらに熾烈な戦いが待っている。
それを考えると、日本の電機メーカーはこのままでは生き残っていけない、と率直に感じてしまうのだ。
そんな危機感が少しずつ身近に感じられるようになった2008年に、俺がある総務省系の協会の機関紙に投稿した記事を掲載しておこう。
「完全デジタル元年(2011年)に向けて想うこと」と題した、地デジ礼賛の随想である。

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「完全デジタル元年(2011年)に向けて想うこと」(寄稿)
○○○○○株式会社 長野支店 支店長 ●● ●●
2003年12月、三大都市圏においてスタートした地上デジタル放送(以下「地デジ」)は、その放送エリアを着々と拡大し、本年3月末には視聴可能世帯数が93%を超えた。また、地デジ受信機の普及台数も、この8月末現在で約3859万台となったという。 全国に一億台以上普及しているアナログ受信機をすべて変更するという、「アポロ計画」にも似た大事業は、2011年7月24日の地上アナログ停波に向けて、まさに秒読み段階に入ったと言える。
私が何故おおげさにも「アポロ計画」に言及したかと言えば、地デジの普及計画も先ず最初に目指すべきゴールを明示し、そこから遡って設定されたマイルストーンを確認しながら着実に進められてきたプロセスであり、1960年代の挑戦的な大事業、「アポロ計画」をどうしても連想せずにはいられないからである。
「アポロ計画」は、1961年5月25日にケネディ大統領が発した声明、「今後10年以内に人を月面に着陸させる」という途方もない計画に端を発した、まさに人類の夢を実現した事業である。当時のアメリカは、初の有人飛行に実現したばかり。その後、緻密で周到な準備、飛行計画が検討され、実行されてきたが、その間、人命を失うほどの様々な障害を乗り越え、ついに1969年7月16日に、アポロ11号が初めて月面着陸を果たすのである。その当時と現代とではあまりにも時代背景は違うものの、先ずゴールを設定し、そこから実現可能なマイルストーンを設定してゆく進め方や、全体投資の大きさ、またその計画が科学技術の発展に与えた影響は、地デジ普及計画ととても似ていると思う。
地デジの普及もこれまで国の計画、推進マイルストーンにもとづき、各関連団体や放送局、メーカーの一体となった取組みが着実に実行されてきた。なかでも我々受信機メーカーは、地デジのメリットを多くの人がより簡単に享受でき、かつ安価に手に入るテレビ受信機の開発に向けた不断の取組みを、デジタル化のフォローの風に背中を押されながら進めてきた。その結果、価格においては数年前まで「1インチ=1万円」と言われた薄型テレビも、昨今の量販店の店頭では「1インチ=5千円前後」で売られている。ここ数年間は、2~3割/年の価格低下を実現してきており、このことは受信機の普及を加速させてきた大きな要因であろう。
もちろん、機能面でも格段の進歩が見られた。ハイビジョンやEPG(電子番組ガイド)、データ放送はあたりまえで、ネット接続による双方向通信機能やハードディスク録画機能(「アクトビラ」、「YouTube」等の動画配信サービスにも対応)などを搭載し、「新たな情報受発信端末」としての位置づけに家庭のテレビが変わりつつある。
我々は2011年の「完全デジタル元年」に向けて、業界を挙げてこれまで以上に受信機の普及促進に取り組んでゆく。あわせて、国民の生活を変える「デジタル新時代」の幕開けにふさわしい受信機の開発に邁進したい。2011年も一つのマイルストーンであり、わが国のさらなる繁栄に向けたスタート地点なのだから。
最後に、前述のアポロ11号のアームストロング船長の言葉で結びとしたい。
“That's one small step for a man, one giant leap for mankind”
(これは一人の人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ。)
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以上、名古屋戦線以上無し。

by kaiseik
| 2011-07-24 12:28
| 勝利に向けて
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