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生まれいづる悩み

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昨日から有島武郎の「生まれいずる悩み」を読んでいる。当時の北海道の冬を見事に描いている。「冬の海の厳しさ、美しさ」は、何よりそこに住まう民の日々の営みを通じてより強く感じられるものだ。文章によって「描く」とは、このようなことを言うのだろう。プロの作家の才能に、久々に感動した。ただ、物語の内容はいささか暗く、「女々しい」。岩内出身の画家、木田金次郎のおかれた困窮、画家としての能力不足感などの逆境に対し、一見成功し恵まれた有島が、あきらかに羨望の念を抱いている。持てる者が、持たざる者に感じる一種の憧憬は、「全て」を持つことがかなわないのが人生なのだ、そして、「無いものがある」のが生きていく上での悩みなのだ、という真実を教えてくれる。
有島は、木田金次郎の生き方に触れることで、彼自身の生きる悩みを軽減させようとしたのに違いない。
木田の生き方を、有島の文章を通して垣間見て、あらためて岩内の木田金次郎美術館に足を運んでみたくなった。
ゴッホのような荒々しい筆遣い、絵筆にこめた溢れんばかりの不屈の精神を、再び感じてみたくなったのと、スキー場のある山の中腹から、冬の岩内を眺めたくなったのである。
名古屋時代、三重県立美術館で観たヴラマンクの絵に、瞬間的に岩内の冬を感じて、しばし見いってしまった。岩内という町は冬の荒々しさを典型的に感じる場所であり、原風景として俺の脳裏に強く焼き付いている。木田の画風も、この自然のごとく、無骨で荒々しいものである。
ところで、有島は小説家としては一流だったが、男としては三流だった。何故なら、他人の妻を好きになり、軽井沢の別荘でその女性と心中を図ったからである。死にどんな意義を感じたのだろうか?どこまでも現実から逃げ続けた悲観主義者としてしか、俺は有島を評価できない。
以上、東北戦線異常なし。
by kaiseik | 2013-10-30 10:10 | 読書道 | Trackback | Comments(0)

北海道戦線異状無し・・・メーデーメーデーっ


by kaiseik
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