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「翳りゆく夏」 赤井三尋さん

「翳りゆく夏」 赤井三尋さん_d0039059_12295.jpg江戸川乱歩賞をとった長編であるが「メドゥサ、鏡を・・・」を読んだ後では、ミステリアスさが格段に物足りなく、結末も想像を大きく越えるものではなかった。かつては大手新聞社のやり手記者であったがある理由で干されていた主人公、梶が、社長の特命を受けて20年前の時効になった誘拐事件を調査していく。警察もつかめなかった糸口を見つけ、事件の真相に迫るのだが・・・。最後の真犯人をつきとめるところは急展開でいささかドラマ仕立てであった。そのあたりを別にして、物語がかなり丁寧に書かれており、夏の陽炎の中を、額から噴出す汗をぬぐいながら犯人の足跡を追う梶の姿が、脳裏に浮かぶ。この物語はドラマ化して船越英一郎あたりが梶を演じたら二時間ドラマスペシャルとしてとても楽しめるのではないだろうか。しかし、映像化したほうが感情移入できると思うミステリーは、やはり何かの要素が欠けているのだろう。たぶん、最終場面での主人公と真犯人の内面描写だと思う。犯人が何故このような行動を起こすことになったのか?ここまで丁寧に書いてきたのだから、もう少し犯人の葛藤や苦しさを描ききって欲しかった。巷にあふれる推理小説同様、真犯人が見つかったらストーリー完了、というような軽さが感じられた。

どんな人にも、他の誰にも明かさずに墓場まで持っていこうと心に決めた秘密が必ず1つはある。また、その秘密により、日々耐え難い良心の呵責を感じ続けている人もいるはずだ。誰にも言えない秘密というものは、喉に刺さった魚の骨のように日常生活において心の平静をおびやかす。また、その秘密が重大なものであるほど、受ける痛みも耐え難いものとなる。この物語の犯人も、秘密を暴かれた悲しみよりもそれを守り続ける苦しさから解放された幸福感の方が強かったのではないだろうか?

以上、東北戦線異常なし。

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by kaiseik | 2007-04-08 00:37 | 読書道 | Trackback | Comments(0)

北海道戦線異状無し・・・メーデーメーデーっ


by kaiseik
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